眠りの科学

不安で眠れない夜に|頭のなかの”ぐるぐる”が止まらないあなたへ

今夜のポイント

布団に入ったとたん、不安な考えがぐるぐる回りはじめて眠れない――。それは、あなたの意志が弱いからじゃない。夜という時間に、不安が大きく見える「脳の仕組み」があるんだ。今夜は、その理由と、ぐるぐるとのやさしい付き合い方を、いっしょに見ていこう。

一日が終わって、ようやく布団に入る。からだは疲れているはずなのに、目を閉じたとたん、頭の中だけが動きはじめる。

「あのとき、ああ言えばよかった」「明日、うまくいくかな」「これから、どうなるんだろう」──。一度気になりだすと、考えても答えの出ないことが、次から次へと浮かんできて、止まらなくなる。気づけば時計の針はずいぶん進んでいて、眠れないことにまた焦って、もっと目が冴えてしまう。

もし、そんな夜を過ごしているなら。今夜は、ひとりじゃないよ。同じように、夜の暗がりで考えごとがほどけなくて、眠れずにいる人は、たくさんいるんだ。

夜になると、不安が大きく見えるのはなぜ?

昼間は気にならなかったことが、夜になると急に重くのしかかってくる。これには、わたしたちの脳の働きが関係していると言われているんだ。

脳のなかには、不安や恐怖を感じとる「扁桃体(へんとうたい)」という部分がある。そして、その扁桃体が暴れすぎないように、ブレーキをかけてくれるのが「前頭前野(ぜんとうぜんや)」という、理性をつかさどる部分。昼間は、この二つがバランスをとって、不安と上手につきあえている。

でも、夜はちがう。一日の終わりには脳も疲れていて、ブレーキ役の前頭前野の働きが弱くなりやすい。すると、扁桃体の感じる不安にブレーキがかかりにくくなって、ネガティブな考えを「もうやめよう」と止めるのが難しくなる。しかも夜は、まわりが静かで暗くて、気をそらすものがない。だから、心はどうしても内側へ、不安なほうへと向かいやすいんだ。

こんな研究がある

国立の研究機関の報告によると、平日に相当するわずか5日間の睡眠不足でも、健康な人の脳で、不安を抑える前頭前野と扁桃体のつながりが弱まり、不安や気分の落ちこみが強まる傾向が確認されたそうだよ。つまり、眠れていないこと自体が、不安を感じやすくさせている可能性がある。眠れないと不安が強まり、そのせいでもっと眠れなくなる。そんな輪っかが、知らないうちにできてしまうことがあるんだ。だからこそ、その輪っかを、自分を責めることでさらにきつく締めないであげてほしい。

出典:国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所/JSTサイエンスポータル ほか

ここで知っておいてほしいのは、これが「あなたの心の弱さ」ではなく、脳と睡眠の仕組みの話だということ。夜に押し寄せる不安の大きさは、朝になればたいてい、少しだけ小さくなっている。それは、あなたの問題が解決したからではなくて、脳が休んで、ブレーキがまた効くようになるから。夜の不安は、夜の色眼鏡を通して見た、実際より少し大きな影なんだ。

今夜できる、“ぐるぐる”とのやさしい付き合い方

ぐるぐる思考は、「考えるのをやめよう」と思うほど、かえって強くなることがある。だから、無理に止めようとしなくていい。ここでは、ぐるぐると少しだけ距離を取るための方法を、いくつか紹介するね。全部やろうとしなくていい。今夜のあなたに、ひとつでも合いそうなものがあれば。

こんな方法がある

① 頭のなかを、紙に出してみる
枕元にメモとペンを置いて、浮かんでくる考えを、そのまま書き出してみる。きれいな文章じゃなくていい。殴り書きでいい。頭のなかでぐるぐるしている思考は、外に出すと、少し距離を置いて眺められるようになると言われているよ。「書く」という行為そのものが、ぐるぐるを一度止めてくれることもある。

② 「〜と考えている」を付け足す
「私はダメだ」と浮かんだら、「私はダメだ、と”考えている”」と、心のなかで付け足してみる。たったこれだけで、その考えが「動かない事実」ではなく、「今、たまたま浮かんだ考えのひとつ」に見えてくることがある。考えと、あなた自身のあいだに、すきまをつくる方法だよ。

③ 心配は、“あした考える”ことにする
夜に考えても、答えは出ないことが多い。「これは、明日の自分にまかせよう」と、心配事をそっと先送りにしてみる。心配を消すんじゃなくて、考える時間を昼に移すだけ。夜のあなたは、ただ休んでいい。

出典:ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)等で紹介されるセルフケアの考え方より

もうひとつ。ベッドのなかで考えごとをしすぎると、脳が「ベッド=考える場所」と覚えてしまうことがあると言われているよ。もし、布団に入って2、30分たっても眠れず、ぐるぐるがつらいときは、一度ベッドから出て、暗めのあかりのなかで、ゆっくり過ごしてみるのもひとつ。そしてまた眠くなったら、布団に戻る。ベッドを「安心して眠る場所」として、からだに思い出させてあげるんだ。

でも、つらさが続くときは、ひとりで抱えないで

ここまで、夜の不安とのつきあい方を話してきたけれど、いちばん伝えたいのは、これ。ぐるぐるが何日も続いたり、不安で日中の生活までつらくなったりしているなら、それは「がんばりが足りない」のではなくて、誰かの手を借りていいサインだということ。

夜に不安が止まらない状態が長引くことは、心の疲れや不調と関わっていることもある。それは、風邪をひいたら病院に行くのと同じで、決して特別なことでも、恥ずかしいことでもないんだ。心療内科や精神科は、そういう「眠れないほどの不安」を相談していい場所だよ。話してみるだけで、肩の荷が少し軽くなることもある。

あなたは、夜の不安と、ずっとひとりで戦わなくていい。今夜は、この音といっしょに、ただ、ここにいて。眠れなくても大丈夫。あなたが、こうして自分を休ませようとしていること。それだけで、もう、じゅうぶんがんばっているよ。

だいじなお願い

この記事は、夜のセルフケアに寄り添うためのもので、医療行為や診断ではありません。感じ方には個人差があります。不安やぐるぐる思考で眠れない状態が続くとき、気持ちのつらさが大きいとき、日常生活に支障が出ているときは、がまんせず、心療内科・精神科などの専門機関に相談してください。あなたの心とからだの安全が、いちばん大切です。

この記事は夜のセルフケア情報として公開しています。音や眠りの感じ方には個人差があります。眠れない状態が続く場合は、医師や専門家へご相談ください。